発達障害の可能性のある児童生徒等に対する
教科指導法研究事業

①国語における「志導」に関する教授法(2)

★ 対象とした学習上のつまずくポイント:

聞く話す機能は実年齢相当であるが、文字の読み書きに困難がある。具体的には、教科書や副読本、ワークシート等の読み書きができない、もしくは読み書きに同学年の児童生徒に比し2〜3倍程度の時間を要する。

★ 上記に対する取組内容:

上項★3の症状を呈する障害としては「発達性ディスレクシア、特異的読字障害」等が考えられる。教育現場においては医学的診断や教育的判断が出ていない児童生徒も多く、また教職員・保護者も「読み書きは遅いが障害とはいえない」と捉えている事例も多い。したがって、教職員・保護者からは「本人のやる気がないからやらないだけ」「繰り返し学習・練習すれば覚えられる」と誤解され、学習性無気力等の二次障害に発展する場合も少なくない。このような「読み書き困難」というつまずきに関して、教員養成課程等における学部生・大学院生への教授法については後述する。本項では、上記のつまずきがある児童生徒への「志導」の方法について開発・考案した内容を示す。

B) 児童生徒自身が読みやすいと実感できる聴覚教材の準備:

読みのつまずきが大きいものの音声言語を聞く・話すことにつまずきはない事例も多いことから、文字情報を音声情報に変換して提示する方法も有効である。

  • (ア) 前項A)の(ウ)で挙げた教科書のデジタルファイルを、ICT端末の音声読み上げ機能(VoiceOver、スピーチ等)によって、音声情報に変換することが可能である。音声読み上げ機能は、合成音声の声質(性別等)や読み上げ速度等を調整できるため、志導の対象となる児童生徒の聴覚情報処理の能力に応じたカスタマイズが必要である。
  • (イ) 副読本や教員が独自に作成したプリント等は、デジタルファイルが提供されていない。そこで、光学式文字認識機能と音声読み上げ機能が搭載されたiOS端末アプリ「タッチ・アンド・リード」を用いて紙媒体の教材を撮影し、視覚情報の文字を光学式文字認識機能により電子化し、電子化したデータを端末の音声読み上げ機能を用いて聴覚情報に変換して、提示する方法がある。この方式も、本人に確認しながら、合成音声の声質や読み上げ速度等をわかりやすい設定に変更する必要がある。また、紙媒体の教材を撮影する際に、レンズと教材の距離を一定に保つことが難しい児童生徒も多い。そこで、カメラ用アームや段ボールを用いた簡易撮影台(図5参照)を作成した。撮影台にiPadを置き、台の下に紙媒体の教材等を置くことで、教材との距離や撮影面の照度等を一定に保ち、鮮明に写真を撮ることができた。
  • (ウ) 教科書を教員や保護者が音読した音声を録音し、該当ページ・行を示すシールを端末で触ることで、録音した音声が再生される障害支援機器(例:VOCA-PEN)が販売されている。音声読み上げ機能の合成音声よりも自然な音声で読み上げられることから、こちらの方式を好む児童生徒もいる。一度録音しておけば、児童生徒が自由に音声情報を利用できるようになる。ただし、教員や保護者が音読し、該当ページ・行にシールを貼る等の作業が必要であるため、支援者側に習熟が必要となる。