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掲載レポート

東京都立城南特別支援学校・光明特別支援学校視察を終えて

河本晴香(愛媛大学教育学部特別支援教育教員養成課程・平成25年度卒業)

1.はじめに

 東京都の特別支援学校における医療的ケアの実施状況等を見学し、重症心身障害の教育について見識を深めることを目的とし、東京都立城南特別支援学校、光明特別支援学校の視察を行った。城南特別支援学校では、主に校内での医療的ケアの実際、光明特別支援学校では支援技術の効果的な活用の視察をした。

2.医療的ケアの実施状況

 厚生労働省は平成16年5月に「在宅及び養護学校における日常的な医療の医学的・法律整理に関する研究会」を設置した。9月の最終報告では、「違法性の阻却により、あくまで医療的ケアは医療行為であるが、一定の条件下ではやむを得ないもの」と整理された。そして、平成23年に「介護サービスの基盤強化のための介護保険法案の一部を改正する法律案」が成立し、研修を受けた非医療職による医療的ケアの実施(医師の指示のもとで行われる)が平成24年4月より法的に認められることになった。
 教員が医療行為を実施する上で必要な条件は、①保護者及び主治医の同意、②医療関係職種による的確な医学整理、③医療行為の水準の確保、④学校における体制の整備、⑤地域における体制整備である。関係者全員が責任をもつという考え方から、医療的ケアを学校で実施する場合、看護師のみの実施であっても多くの段階(書類のやりとり等)を踏まなければならない。東京都が出している医療的ケアに関する書類を見せてもらったが、量が非常に多かった。また、学校で医療的ケアを行う場合、保護者の同意が必要だが、在籍している子どもの保護者の中には同意をしていない方もいることから、学校や教員、保護者との信頼関係づくりも非常に大切だ。
 今回視察した都立城南特別支援学校では、教員2名による給食時の胃ろうから注入の様子を観察することができた。子どもによって項目が異なっている細かなチェック項目に従って2名の教員が丁寧に管理(ダブルチェック)を行い、担当教員以外にチェック表には看護師・保護者のサインを記入するようになっていた。また、留置している管の周囲がただれている場合、大抵は患部にガーゼを使用するが化粧パフを使用していた。教員や看護師の日々の工夫を見ることができた。

3.アシスティブ・テクノロジー(支援技術)の効果的な活用

 支援技術の役割とは、子どもの今ある力を最大限に活かした活動を組み立て、本人の自発可能な動きで活動が行えるようにすることである。特にコミュニケーションにおいて肢体不自由のあるこどもは、表出が小さかったり気づかれにくかったりするため、教員や保護者などの他者から誤解されやすい。支援機器を使用し、明確な表出をすることによって他者からの誤解をなくし、コミュニケーション成立の経験を積むことによってコミュニケーションの質が向上される。また、学習活動や係り活動を自らの操作で行うことで、子どもの主体性を育て、達成感・満足感を味わうことができる。活動全てを自分の力でできるようにするのではなく、活動のポイントとなる部分をその子の力でできるように道具や方法を工夫することが重要である。
 障害の重い子どもにとって、スイッチやタブレット端末を操作したこと(自分のやったこと)とそれによってもたらされた結果の関係がわかりやすくすることが大切だ。子どもの意図せずに起きた結果に対して効果的にフィードバックすることで、子どもの主体性が生まれるのである。光明特別支援学校では、様々な支援技術を積極的に取り入れており、VOCAやスイッチ、タブレット端末、視線入力装置などがあった。視線入力装置は、本人は何も装着する必要はなく、装置が瞳孔の動きを捕捉できる範囲であれば、頭部が多少動いたとしても注視点を検出できるしくみになっていた。意図をもっていない注視でも、何らかの反応があることで、次は意図的に注視するようになるのである。 多くの支援機器を見たが、どれも教員の工夫が施されており、例えば「読み上げベンサトシくん」では絵本を1ベージずつ読み上げるように設定されていたり、音楽を登録していたりと子どもが楽しめるようになっていた。

4.終わりに

 最近では、医療的ケアを必要としている子どもや、複数の障害種に対応する特別支援学校は増加しており、医療的ケアに適切に対応できる教員が求められている。今回、東京都立の特別支援学校2校を視察し、教員による医療的ケアの実際や支援機器の活用を見ることができ、自分たちの課題も見えてきた。10月からのしげのぶ特別支援学校での教育実習では、今回学んだことを生かし、充実したものにしていきたい。

東京都立特別支援学校の視察について

近藤久起(愛媛大学教育学部特別支援教育教員養成課程・平成25年度卒業)

 今回、「重症心身障害児に適切に対応できる特別支援教育教員養成課程カリュキュラムの開発」ということで、東京都立城南特別支援学校と東京都立光明特別支援学校へと訪問し、医療的ケアの実施状況等を見学し、重症心身障害児の教育についての見識を深めた。

[東京都立城南特別支援学校]
城南特別支援学校は東京都の東南に位置し、全校児童生徒数120人程の東京都でも小規模の学校である。都立城南特別支援学校の教育の中で副籍制度の活動に力を入れていた。この副籍制度とは、特別支援学校の学籍に加えて、地元の学校の籍を取得することを目標としている。地元の学校と直接・間接交流を行うことによって、地元の学校はその障害をもつ子ども達に教材をつくってもらい、障害をもつ子ども達に対しての理解を深めるための、共同及び交流学習を行っていた。こうした活動は、障害に対する理解のみではなく、障害をもつ子ども達の社会性を身につける、友人関係を築く、深めるために必要なことである。そうすることで、障害をもつ子ども達が特別支援学校を卒業しても、地域にその子ども達の理解者がいれば少しでも安心して生活することができる。また、愛媛の肢体・病弱領域の特別支援学校よりも城南特別支援学校は、障害の重度化、重複化、多様化が進んでいると感じた。そのために、医療的ケアは非常に重要である。看護師が学校に2名常駐していると話を聞いたが、その人数の看護師だけでは医療的ケアが必要な児童生徒にきめ細やかなケアを行うことができない。教員同士が様々なケアを行う、ダブルチェックがなされていた。お互いに項目を確認し安全の確保を目的とする。医療的ケアについては、保護者の承諾が必要であり、研修が数多くあるなど子ども達の命を預かる教員にとって、非常に責任の重い行為であると強く感じた。

[東京都立光明特別支援学校]
アシスティブ・テクノロジーの効果的な活用についての話を聞いた。現在、特別支援学校でもICT機器の導入がなされており、特にipadが主流になってきている話を聞いた。支援機器を通して、子ども達の成功体験を積み重ねることによって、主体性が育つ。私も障害をもつ子ども達にとっては、主体性・意欲を育てていきたいと考えている。今回の話も含め、ICT機器の活用法を学び、特別支援学校における専門性(医療、ICT等)を高めていきたいと感じた。

「東京都立特別支援学校の視察」レポート

橋田麻紀(愛媛大学大学院教育学研究科・平成25年度終了・現職教員)

 平成25年9月27・28日の2日間、東京都立城南特別支援学校と光明特別支援学校を見学し、各学校の概要や具体的な取組や支援について説明していただいた。
 城南特別支援学校では、初めに東京都における「~特別支援学校」「~学園」と呼ばれる学校の違いや「副籍」制度についての説明があった。また、学校には小学部・中学部・高等部のほかに訪問部があり、在宅訪問や病院訪問による一人ひとりを大切にした授業をしている、通学範囲が大田区、品川区、港区と広範囲にわたっているが、体の不自由な児童生徒の体調を考え、1時間前後以内に送迎できるように12台のスクールバスで送迎をしている、等の説明もあった。
 医療的ケアについては、校内に常駐している看護師や介護福祉士の免許を持っている教員が行っている事。特に食事については誤聴する事もあるので注意が必要である事。胃にチューブをつなげている児童生徒については、必ず二人でチェックを行う事。食事時だけでなく、姿勢を変えた時やおむつを替えた時にも、必ず教師がチェックし記録する事。等の説明を受けた後、各教室で実際の給食時の様子を見学した。
 給食中は、教師等と児童生徒がほぼ一対一の状態で食事をしていた。自力で食物を口に運ぶ児童生徒、支援者が口に運ぶ児童生徒、栄養チューブを使っている児童生徒と食事の仕方は様々だが、6~7人の児童生徒と支援者が会話をしながら温かい雰囲気の中で食事をしていた。
 光明特別支援学校は、昭和7年に開校された日本で一番歴史のある肢体不自由特別支援学校である。情報教育コーディネーターを中心に、体の不自由な児童生徒の活動を支援するための「コミュニケーション支援機器」の効果的な活用方法を研究している。児童生徒ができる行動が1つあれば、様々な行動につなげる(例えば、自発の動きでスイッチの入力ができれば、おもちゃや電気製品、パソコンを使って楽しむ等)事ができる可能性がある。情報機器を活用する事で、児童生徒がお気に入りの活動を自分自身の操作で楽しんだり、要求を伝えたり呼びかけたりして関わりを求めたり、学習や係活動を自らの操作で行い主体的に参加したりするなどの効果が考えられる。という内容であった。
 コミュニケーション支援機器については、学校に最近導入された「読み上げベン」や「視線入力装置」などを実際に操作しながら効果的な活用を体験した。
 城南特別支援学校では、呼吸時や食事時の少しの不注意が命の危険につながる中で学校生活を送っている事に驚いた。先生方は、言葉が出にくい児童生徒の仕草や表情から状況や感情を読み取り、冷静に対応されていた。児童生徒本人も保護者の方も強い思いで通学している事を感じた。保護者の方が数名いらしたが、表情が明るいのが印象的だった。 光明特別支援学校で紹介されたコミュニケーション支援機器については、今後自分が直接指導支援で活用する事はないかもしれないが、参考になる資料であった。支援方法の一つとして紹介できるように操作方法や効果について調べておきたい。

東京都立特別支援学校を見学して学んだこと

宮内悠紀(愛媛大学大学院教育学研究科・平成25年度終了・現職教員)

1.東京都立城南特別支援学校(医療的ケアについて)

 これから、愛媛県特別支援学校でも実施されることを前提に、全体像を見据えながら主体的にお話を聞かせていただいた。

(1)法に則ったケアの在り方
 当然だが、学校教育の中で行われていることであるから、違法であってはならない。 その中でまず、法律を知らなければならない、と強く感じた。知った上で、問題が明確になり、解決策を具体的に考えることができる。

(2)研修制度について
 研修道具を都で準備されており、その段階もしっかりと整備されていた。愛媛県も今年度より研修が始まったようだが、どのような流れなのであろうか、気になった。初年度ということもあり、担当者で動いているのであろうが、特別支援学校で勤務する中で、今後、誰もが関わることであるため、全体への啓発も必要になってくると感じた。

(3)実際の場面を見て
 私は、「注入は医療的ケア」という概念が根強かったため、「楽しい給食」でもあることを忘れてしまっていたように思う。教師に注入をしてもらい、仲間を一緒に給食の時間を和やかに過ごす光景が印象的であった。しげのぶ特別支援学校では、看護師の在中するケアルームでの注入時間が多く、本を読んでもらったり、音楽を聞いたりして注入することが多い。やはり、教室で仲間と過ごす給食の時間は充実した学校生活の一部分であると改めて思った。

2.東京都立光明特別支援学校(コミュニケーションの支援機器について)

 コミュニケーションの支援機器については、研修しつつ、実際使用してみなければ身につかない、と思っている。自分の担任している子どもの実態を把握し、どのような表出方法が合っているかを確認しつつ、自発的な動きや事実の認知を引き出していきたいと、日頃から考えている。実際たくさんの機器を見せていただいて、具体的に00さんなら喜んで使えるな、と非常に参考になった。本校の機器の状況と照らし合いながら、活用していきたい。

3.全体を通して

 バスステーションやスロープ、廊下の幅などハード面の環境の違いに驚いた。いかに安全に子どもたちが生活できるかを考えて、新しくできる肢体不自由のある子どもたちの通う学校の環境が整うことを祈っている。
 今回の研修を生かして、しげのぶ特別支援学校で経験したことに「なぜ」と疑問に思ったり「できる」と目標にしたりした事柄を加えて、これまでと違う関わりができるように思う。このような機会をいただいたことに、心より感謝しております。ありがとうございました。